産業ロックの頂点、静かなる完成形
■セールスからでは測れない、音楽的成熟の結晶
Heartが1990年にリリースした『Brigade』は、全米No.1ヒットを含む『Heart』(1985年)、続く『Bad Animals』(1987年)と続いた、いわゆる“産業ロック路線”の総仕上げとも言える1枚だ。セールス的には前2作に一歩及ばなかったかもしれないが(それでも全米で200万枚のセールスを記録)、作品としての完成度は決して劣らず、むしろこの路線の中で最高傑作と断言するファンも多い。自分もその一人だ。
ハードロック的な重厚さとポップス的な親しみやすさを絶妙に融合させたそのサウンドは、90年代初頭の空気感と見事にマッチしながらも、今聴いてもまったく色褪せていない。
■曲順で魅せる、巧妙な構成美
1曲目「Wild Child」でいきなりアクセル全開。切れ味鋭いギターとドライヴ感あふれるリズムが、Heartのロックバンドとしての地力を存分に見せつける。一方、続く2曲目「All I Wanna Do Is Make Love To You」は一転してポップで親しみやすく、Ann Wilsonの柔らかな歌声が物語性のある歌詞と相まって、アルバムの世界に一気に引き込まれる。
そして3曲目「Secret」は本作最大のハイライトであり、Heart史上でも屈指の名バラードだと思っている。許されざる恋をテーマにしたとおぼしき切ない歌詞、情感に満ちたAnnのボーカルが胸を締めつけるように響く。この楽曲が複数のベスト盤で未収録となっているのは、そのテーマゆえの扱いづらさなのかもしれないが、それだけに“知る人ぞ知る名曲”としての価値は高い。
その後も「Fallen From Grace」のようなキャッチーなロックナンバーや、「Under The Sky」「Cruel Nights」のように穏やかな癒しをもたらす楽曲が続き、アルバム全体の緩急と流れのよさが際立つ。特に前半の楽曲群は、90年代産業ロックのひとつの到達点と言っても過言ではないだろう。
■失われた、今も求められている路線の最終作
この『Brigade』を最後に、Heartはこの産業ロック路線から距離を置いていくことになる。だが、この作品の完成度の高さに触れたリスナーの中には、「この路線のHeartをもっと聴きたかった」と感じた人も多いはずだ。それほどまでに、このアルバムにはバンドの魅力が詰まっている。単なる商業的な成功をなぞるのではなく、音楽的な成熟を経た上での洗練がそこにはある。
■終わりに
『Brigade』は、派手なチャートアクションやヒット曲の陰で語られがちなアルバムだが、Heartというバンドの深さと幅の広さを再認識させてくれる隠れた名盤である。「Wild Child」で熱く、「Secret」で泣き、「Under The Sky」で癒される。そんな多彩な感情体験が、この1枚に凝縮されている。
Heartの産業ロック期を象徴する作品として、そして“知る人ぞ知る珠玉のバラード”を含む作品として、ぜひ多くの人に改めて触れてほしいアルバムだ。


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