時代に翻弄された名盤
■メロディアス・ハードの名盤、時代の狭間に沈む
Wall Of Silenceの『Shock To The System』は、本来であれば90年代初頭のメロディアス・ハードロック・シーンを象徴するべき作品だった。だが、実際にはレーベル都合によるバンド名の変更、そしてグランジの台頭という不運が重なり、その魅力が広く伝わることはなかった。
とはいえ、本作が“時代に埋もれたままにしておくには惜しすぎる”一枚であることに疑いの余地はない。The Works名義の1st『From Out Of Nowhere』から大きく飛躍したこの2ndアルバムでは、楽曲のメロディの質が驚くほど向上しており、完成度の高さに驚かされる。
■プロデューサーMike Slamerの手腕と、緻密に構成された珠玉の楽曲群
本作の成功に大きく貢献しているのが、プロデューサーに起用されたMike Slamer(Steelhouse Lane、Seventh Keyなど)の存在だ。彼の影響もあってか、アレンジやコーラスワーク、音の重ね方に一切のムダがなく、1曲ごとの密度が非常に高い。
「It’s Only Love」:このアルバムを象徴する、美しいメロディラインが胸を打つ感動曲。歌メロの良さを実感できる。
「Last Night」:前曲とは打って変わって軽快なポップナンバー。リズミカルな展開が耳に心地よい。
「Addicted」:Mike Slamerがのちに結成するSteelhouse Laneでも取り上げられたナンバー。疾走感が気持ちいいメロディアスハードの名曲。
「Stop The Rain」:美しいコーラスワークと哀愁漂うサビが印象的な、本作屈指の名曲。
「Nobody’s Hero」:アルバムのラストを締めくくる、力強さと切なさが共存した強力なロックナンバー。
どの曲にも明確なメロディの“核”があり、それを引き立てる構成と演奏が実に見事。地味なようで、聴けば聴くほどよくできていることがわかる、まさに職人技のような作品だ。
■時代の逆風がすべてを狂わせた
惜しむらくは、アルバムジャケットとリリース時期。ダークなアートワークは音楽性と乖離しており、メロディアスな作品としての魅力が伝わりにくかった。さらにリリースは1992年。グランジの波が音楽シーンを塗り替え、派手で華やかなメロハー/AOR系バンドは一斉に後退を余儀なくされた時期だ。
時代さえ違えば、もっと多くの人の耳に届き、もっと売れていたはずの作品。それだけに、知る人ぞ知る“埋もれた名盤”として語られる現在の状況は、ある意味で必然かもしれない。
■終わりに
『Shock To The System』は、優れた楽曲、美しいコーラス、洗練されたアレンジを兼ね備えた、90年代初頭メロディアス・ハードの隠れた傑作だ。たとえ表舞台で光を浴びることがなかったとしても、今この作品に出会えたリスナーは幸運だと言えるだろう。
もしもあなたが、“メロディ”という言葉に弱いのであれば、必ずこのアルバムは心に残るはずだ。時代を超えて、いまこそ再評価されるべき一枚。

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