歌とギターの美しき共演、メロディ重視の理想形
■ギタリスト主導ながら“歌が主役”のメロディアス・ハード名盤
Misha Calvin――卓越したテクニックと作曲センスを併せ持つギタリストが1993年に放った『Evolution』は、いわゆる「ギタリストのソロアルバム」に対する固定観念を覆す、完成度の高いメロディアス・ハードの名作だ。
この作品の最大の特徴は、「あくまでも楽曲重視」という姿勢を貫いていること。ギターを軸にしながらも、過剰な技巧や自己主張に走ることはなく、むしろ名ボーカリストたち――Tony Martin(元Black Sabbath)とIan Parry(Elegyほか)――の魅力を最大限に引き出す土台として機能している。結果として、ソロアルバムとは思えないほどの“バンド感”と“曲としての完成度”が生まれている。
■名曲揃いの中で異彩を放つ、インスト「Evolution」
本作ではボーカル曲が中心でありながら、8曲目に配されたインストゥルメンタル「Evolution」はまさにアルバムの核と言える存在。過剰な速弾きではなく、じっくりとメロディを歌わせるスタイルで、情感豊かに奏でられる旋律が聴き手の心に深く染み込んでくる。フィンガーノイズさえも表現の一部として聴こえてくるあたり、生々しく“人間味”を感じる演奏が印象的だ。
ここには、“歌うように弾く”というギタリストとしての真骨頂があり、同時に本作が「ギター主導のアルバム」であることを静かに証明している。
■ボーカリスト2人の個性と、曲ごとの彩り
Tony MartinとIan Parryという個性の異なる実力派ボーカルが交互に登場する構成は、アルバム全体に適度な起伏と変化を与えている。パワフルで劇的なTony Martin、繊細で透明感のあるIan Parry――それぞれが持ち味を活かしながら、Misha Calvinのメロディと見事な化学反応を見せている。どの楽曲にも耳を惹くフックがあり、アルバムを通して“聴かせる”力に満ちている。
特定のヒット曲がなくとも、アルバム全体が“捨て曲なし”の完成度を持っていることは、このジャンルにおいて極めて貴重だ。
■曲順と構成の妙、それらがもたらす没入感
『Evolution』は、インストとボーカル曲の配置バランスが非常に優れており、アルバムとしての“流れ”が実に滑らかだ。ハードさとメロディアスさ、ドラマ性と親しみやすさ、それらが過不足なく詰め込まれている。気がつけば最終曲にたどり着いており、「もう一度頭から聴きたい」と思わせる没入感があるのも、この作品の持つ不思議な魅力だ。
■終わりに
Misha Calvinの『Evolution』は、技巧派ギタリストのソロ作品でありながら、ボーカルの魅力を引き出すことに徹したメロディアス・ハードの理想形だ。ギターはあくまで楽曲を支える“語り手”として機能し、感情と物語性をもたらしている。インスト曲「Evolution」における静かな感動、そしてボーカル曲のドラマ性――そのすべてが絶妙なバランスで共存しており、まさに“知る人ぞ知る名盤”と呼ぶにふさわしい一作である。
ジャンルを超えた“楽曲そのものの美しさ”を味わいたいリスナーには、ぜひ一度通して聴いてほしい。


コメント